睡眠

Apple Watchの睡眠計測はどこまで正確? 検証してわかった得意と不得意

「Apple Watchの睡眠、当たってるの?」はよく聞かれる質問です。私たちは公開されているPSG(睡眠ポリグラフ検査)データを使って、この問いを自分たちで測りました。結果は、得意なことと不得意なことがはっきり分かれるものでした。

Apple Watchの睡眠計測はどこまで正確? 検証してわかった得意と不得意

まず、短く答えると

段階の推定については、Apple Watchの心拍だけを使った場合でも、臨床PSGから取り出した心拍変動を使った場合とほぼ同じ精度でした(一致度κ=0.221 対 0.244)。ただしどちらも「そこそこ一致する」水準にとどまります。一方、REM睡眠の割合や睡眠効率といった一晩の要約値は、PSGの値とほとんど相関しませんでした。段階の傾向は参考になりますが、アプリが出す「REM◯%」を数値として受け取るのは適切ではありません。

この記事の要点

  • Apple Watchの心拍のみでも、臨床PSG由来の心拍変動とほぼ同じ精度で段階を推定できた
  • ただし一致度κは0.22前後で、「正確に当てている」水準ではない
  • 前後の時間帯の情報を外すとκは0.09まで落ちる — 単発の心拍だけでは足りない
  • REM%との相関はr=0.003。一晩の要約値の再現は目標にまったく届かなかった
  • コホートを入れ替えても性能はほぼ落ちず(AUROC低下0.028)、特定のデータへの過適合ではない

何と何を比べたのか

睡眠段階の「正解」は、脳波・眼球運動・筋電図を同時に記録するPSG(睡眠ポリグラフ検査)で決まります。一晩の検査に専門技師が必要で、体には20本以上の電極がつきます。これが基準です。

この基準に対して、私たちは2つのやり方を同じ条件で比べました。ひとつは臨床PSGから取り出した心拍変動(24次元)。もうひとつは、Apple Watchから得られる心拍だけを使ったもの(11次元)です。後者はWalchらが公開した、Apple WatchとPSGを同じ夜に同時記録したデータ(25,813エポック)で評価しました。

結果1:Apple Watchは臨床データとほぼ互角だった

差はκで0.023しかありません。「手首の心拍だけでは足りないのでは」という直感に反して、少なくとも段階の推定においては、臨床レベルの心拍変動を使っても結果はほとんど変わりませんでした。

ただしこれは「Apple Watchが優秀」という話であると同時に、「心拍から睡眠段階を読むこと自体に上限がある」という話でもあります。κ=0.22は統計的には「まずまずの一致」に分類される水準で、脳波を見ずに段階を当てる難しさがそのまま表れています。

  • 臨床PSGの心拍変動(24次元): macro AUROC 0.711、一致度κ 0.244
  • Apple Watchの心拍のみ(11次元): macro AUROC 0.708、一致度κ 0.221

結果2:前後の文脈を外すと大きく落ちる

同じ手法から、前後5エポック(およそ5分半)の情報だけを取り除いて計算し直すと、精度ははっきり落ちました。

  • 臨床PSGの心拍変動: κ 0.244 → 0.119
  • Apple Watchの心拍のみ: κ 0.221 → 0.092

結果3:一晩の要約値は再現できなかった

ここが今回いちばん重要な結果です。段階を推定できるなら、そこから「睡眠効率」「REM%」といった要約値も出せそうに思えます。私たちは事前に「PSGの値との相関がr≥0.85なら合格」と決めて検証しました。結果は次のとおりです(67記録)。

  • 中途覚醒時間(WASO): r = 0.42
  • 深い睡眠の割合(N3%): r = 0.32
  • 睡眠効率: r = 0.30
  • 入眠潜時: r = −0.007
  • REM睡眠の割合: r = 0.003

では、何を見ればいいのか

この結果から言えるのは、ウェアラブルの睡眠計測を「一晩の成績表」として読むのは無理がある、ということです。REM%が昨日より5ポイント下がっていても、それが実際の睡眠の変化なのか推定の揺れなのかを区別できません。

Feelmoが睡眠段階そのものを前面に出さず、複数の夜にわたる傾向として扱っているのは、この検証結果を踏まえています。同じ条件で測った自分自身の記録を、数日から数週間の流れとして眺める — いまのところ、それが手首のセンサーに対して誠実な使い方だと考えています。

検証条件と限界

  • コホートを1つ抜いて学習し直しても性能低下はAUROCで0.028にとどまり、特定のデータへの過適合ではないことを確認しています
  • 評価に使ったのは公開データセットで、Feelmoの利用者データは一切使っていません
  • 一晩の要約値の検証は67記録と規模が小さく、相関の絶対値には幅があります
  • これは睡眠段階の推定精度についての検証で、睡眠障害の有無を判定するものではありません

参考資料

  1. Sleep accelerometer and heart rate data(Walch 2019)PhysioNet
  2. 年齢別・性別のHRV分布(公開データ1,121人の再解析)Feelmo
Apple Watchの睡眠計測はどこまで正確? 検証してわかった得意と不得意|Feelmo