まず、短く答えると
SDNNは測定区間全体における正常な拍間隔のばらつき、RMSSDは隣り合う拍間隔がどれくらい変化したかをまとめた指標です。AppleのHealthKitはHRVをSDNNとして保存しますが、OuraやWHOOPはRMSSDを使うと説明しています。共通の換算式はなく、数字を直接比べることはできません。指標名、測定機器、時刻、測定時間、姿勢・呼吸、集計方法をそろえて比較します。
この記事の要点
- SDNNは測定区間全体のばらつき、RMSSDは一拍ごとの変化に注目する
- どちらも単位はmsだが、別の計算方法で、直接換算できない
- AppleのHealthKitはSDNN、OuraとWHOOPはRMSSDを使うと公式に説明している
- 個別サンプル、夜間平均、重み付き集計、独自スコアは同じ数字ではない
- 比較するときは、指標・センサー・時間帯・測定時間・姿勢や呼吸・集計方法をそろえる
- どちらの指標も、自律神経の状態や病気を単独で診断する値ではない
結論:同じ「HRV」でも、同じ物差しとは限らない
HRVは一つの測定値の名前ではなく、拍と拍の間隔のゆらぎを複数の方法で数値化した指標群です。SDNNとRMSSDは、その中でよく使われる時間領域の指標です。
測定区間の前半から後半へ拍間隔がゆっくり変わる記録と、一拍ごとに長い・短いを繰り返す記録では、区間全体の広がりと隣り合う拍の変化量が同じになりません。SDNNとRMSSDで数字が違うのは、見ている変化の形が異なるためです。
- SDNN:正常と扱われた拍間隔が、区間全体の平均からどれくらい広がっているか
- RMSSD:隣り合う正常な拍間隔の差を一つずつ求め、その変化量をまとめたもの
- 共通点:どちらも通常はミリ秒で表し、元になる拍間隔の品質に左右される
- 相違点:変化のどの部分を強く反映するかが違うため、同じ数値になる必要はない
SDNNは「区間全体の広がり」を見る
SDNNは、Normal-to-Normal interval、つまり解析上正常と扱われた拍どうしの間隔について標準偏差を求めた値です。測定区間に含まれる、ゆっくりした変化から速い変化までを合わせた全体的なばらつきを表します。
SDNNは測定時間の影響を受けます。長く記録すれば、睡眠と覚醒、姿勢、活動、時間帯などによる変化を取り込む機会も増えます。そのため、短い測定のSDNN、5分間のSDNN、24時間のSDNNを同じ基準で比較することはできません。
AppleのHealthKitは心拍変動をSDNNとして、ミリ秒単位の離散的なサンプルで保存します。医療機関の24時間心電図で計算するSDNNと名称が同じでも、測定条件は同じではありません。
RMSSDは「一拍ごとの変化」を見る
RMSSDは、隣り合う正常な拍間隔の差を求め、その差を二乗して平均し、最後に平方根を取った値です。名前は長いですが、「直前の一拍から次の一拍へ、どれくらい変わったかを重視する指標」と考えると分かりやすくなります。
RMSSDは、比較的速い拍間隔の変動を強く反映します。呼吸に伴う心拍間隔の変化とも関係しますが、呼吸の速さや深さ、姿勢、心拍数、測定環境などの影響を受けます。
RMSSDを「副交感神経の量」や「回復力そのもの」と言い換えるのは正確ではありません。2026年のHRV研究ガイドラインも、HRVを心臓への交感神経出力や交感・副交感神経バランスの特異的な指標として使わないよう注意しています。
Apple Watch・Oura・WHOOPは何が違う?
Appleのヘルスケア、Oura、WHOOPは、いずれもHRVをミリ秒で表示します。しかし、公式資料が説明する指標と集計の単位は同じではありません。機能やアルゴリズムは更新されるため、利用中の製品・アプリの最新説明も確認してください。
- Apple Watch/HealthKit:十分に静止して信号品質を満たした測定から、SDNNの個別サンプルを保存する
- Oura:RMSSDを使い、睡眠中の推移と夜間平均を表示すると説明している
- WHOOP:RMSSDを使うと説明しており、Recoveryでは夜間データを独自に集計する
- 別のアプリ:HealthKitのSDNNを読む場合も、独自センサーや拍間隔から別の指標を計算する場合もある
値が合わない6つの理由
- 指標が違う:SDNN、RMSSD、対数変換値、独自の回復スコアなどを比べている
- センサーが違う:手首や指の光学式センサー、胸部ベルトの心電信号など、入力が異なる
- 測定時間が違う:短い背景測定、起床後の定点測定、睡眠全体など、解析する長さが異なる
- 切り取る時刻が違う:Appleの個別サンプルと、別アプリの夜間代表値が同じ瞬間を見ていない
- ノイズ処理が違う:体動、不規則な拍、信号不良をどこまで除外・補正するかが異なる
- 集計方法が違う:平均、中央値、重み付き平均、最も安定した区間など、1日の値の作り方が異なる
SDNNをRMSSDへ換算してはいけない理由
集団データではSDNNとRMSSDが似た方向へ動くことがありますが、個人の一つのSDNNから対応するRMSSDを正確に求める共通式はありません。元の拍間隔がどの順番で並んでいたかという情報が、要約値だけでは失われているためです。
「AppleのSDNNは42msだから、RMSSDでは何ms」と置き換えず、SDNNはSDNN同士、RMSSDはRMSSD同士で追います。
研究結果を読むときも、使われた指標と記録時間を確認します。24時間心電図のSDNN、5分安静時のRMSSD、睡眠中のウェアラブル値は、すべてHRVと呼ばれていても同じ基準値を共有しません。
比較前に確認する5ステップ
指標名を見る
SDNN、RMSSD、lnRMSSD、独自スコアのどれかを確認します。「HRV」としか書かれていない場合は開発元の説明を見ます。
データソースを見る
iPhoneの「ヘルスケア」→「検索」→「心臓」→「心拍変動(HRV)」から、個別データの時刻と書き込んだ機器・アプリを確認します。
同じ時間帯を選ぶ
睡眠中、起床直後、日中、呼吸セッションを分けます。背景測定と意識的に呼吸した測定も別条件として扱います。
測定時間と姿勢をそろえる
短い測定と一晩の代表値、座位と仰向けなどを混ぜず、比較できる条件だけを並べます。
同じ指標の長期傾向を見る
一つの機器・アプリ・指標を決め、自分の数週間の範囲と比較します。別アプリとの数字合わせを目標にしません。
極端な値や症状があるとき
光学センサーのノイズ、体動、不規則な拍、解析で除外されなかった拍は、SDNNにもRMSSDにも影響します。不規則な拍が多い場合、HRVの極端な高値を「とても回復している」と解釈できないことがあります。
HRVは心房細動などの不整脈を診断・否定する検査ではありません。胸痛、強い息苦しさ、失神、突然続く激しい動悸などがある場合は、アプリ間の差を調べるより先に、地域の救急相談や医療機関を利用してください。
参考資料
- HealthKitの心拍変動(SDNN)仕様 — Apple Developer
- Using Apple Watch to Measure Heart Rate, Calorimetry, and Activity — Apple
- Cardiovascular Health White Paper(HRVはrMSSD) — Oura
- Apple Health Integration(AppleはSDNN、WHOOPはRMSSD) — WHOOP Support
- Guidelines for rigor and reproducibility of heart rate variability within human cardiovascular research — American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology
- Heart rate variability measurement and influencing factors — European Heart Journal — Digital Health
