まず、短く答えると
多くの人をまとめて見ると、周期の前半より、排卵後や生理前にHRVが低くなる傾向があります。ただし、変化の大きさや向きは、測り方や人によって違います。生理前なら必ず下がるわけではありません。Apple Watchと研究で使われるHRVは、計算方法が違うこともあります。一度の数字で判断せず、自分の周期、睡眠、体調と一緒に数周期の流れを見ましょう。
この記事の要点
- 多くの人をまとめると、周期の後半にHRVが低くなる傾向がある
- ウェアラブル研究では、心拍間隔から計算するHRVに約3〜9%の周期差が報告されている
- 変化しない人や、反対に動く人もいる。個人差は大きい
- Apple Watchと研究では、HRVの計算方法が違うことがある
- HRVだけでは、排卵、月経前症候群(PMS)、妊娠、自律神経の状態は判断できない
そもそもHRVとは?
心拍数は、「1分間に心臓が何回動いたか」を表す数字です。HRV(心拍変動)は、「一拍ごとの間隔がどれくらい変化しているか」を表します。心臓は、メトロノームのようにいつも同じ間隔で動いているわけではありません。
Appleのヘルスケアでは、この間隔のばらつきをSDNNという方法で計算し、通常はミリ秒で記録します。HRVは心臓を調整する自律神経と関係しますが、自律神経を直接測っているわけではありません。
HRVは、年齢、呼吸、姿勢、測った時刻などでも変わります。睡眠、運動、飲酒、体調、薬の影響も受けます。そのため、全員に共通する「この数字なら正常」という線はありません。
生理周期の前半・後半とは?
生理が始まった日を「周期1日目」と数えます。生理の開始から排卵までが卵胞期、排卵から次の生理までが黄体期です。一般に「生理前」と呼ばれるのは、黄体期の後半です。
ただし、排卵日は人によって違い、同じ人でも周期ごとに変わります。「14日目が必ず排卵日」とは限りません。生理の開始日だけを記録しても、その周期に排卵があったか、いつ排卵したかまではわかりません。
- 卵胞期:月経開始から排卵まで
- 排卵期:卵子が放出される時期。カレンダーだけでは正確な日はわからない
- 黄体期:排卵後から次の月経まで
- 生理前:一般には黄体期後半だが、日数には個人差がある
研究では、周期の後半に低くなる傾向
2019年には、37の研究、合計1,004人のデータをまとめた分析が発表されました。RMSSDやHFという指標で表したHRVは、平均すると、排卵前より排卵後に低くなっていました。
この分析では、研究ごとの変化の大きさを同じ物差しで比べるために、dという数字を使っています。結果はd=−0.39で、マイナスは排卵後のほうが低い方向を表します。「HRVが39%下がる」という意味ではありません。
結果の不確かさを表す95%信頼区間は、−0.67〜−0.11でした。
周期を細かく分けると、生理中と生理前を比べた5研究・200人、卵胞期の中盤〜後半と生理前を比べた8研究・280人で、低下が統計上確認されました。
ただし、研究数は多くなく、研究ごとの結果にも大きなばらつきがありました。この平均を、そのまま一人ひとりの予測には使えません。ほかの時期の組み合わせでは、はっきりした差が出ていません。「排卵後はずっと同じように低い」とは言えません。
2026年には、ウェアラブル機器を使った16の研究をまとめた報告が出ました。このうち、自然な周期がある人を調べたのは15研究、合計15,273人です。周期の初めにHRVが高く、終わりに向かって低くなる傾向がありました。心拍間隔から計算するHRVについて、各研究が報告した差は約3〜9%でした。
ただし、どちらの報告も「生理前には全員のHRVが必ず下がる」と示したものではありません。使った機器、計算方法、測った時間、周期の分け方が研究ごとに違います。2026年の報告では、方法の違いが大きかったため、すべての結果を一つの数字にまとめる分析は行われませんでした。
大切なのは、一人ひとりの違い
2026年の別の研究では、自然な周期がある21人が、毎日HRVを測りました。排卵前に増える黄体形成ホルモン(LH)を尿で調べる排卵検査を使い、推定した排卵日を基準に周期をそろえました。
すると、全員に共通する変化は見つからない一方で、人ごとに異なる変化が見られました。睡眠の質が低い日や、ストレスや疲れが強い日ほどRMSSDが低いという関連もありました。ただし、原因と結果が証明されたわけではありません。
この結果は、先ほどの研究を否定するものではありません。対象になった人、測り方、周期のそろえ方が違えば、見える結果も変わります。今わかっているのは、「全体の平均には傾向があるものの、一人ひとりの動きはもっと複雑」ということです。
同じHRVでも、計算方法が違う
HRVにはいくつかの計算方法があります。名前は似ていますが、見ている部分が少しずつ違います。
- SDNN:測っている間の心拍間隔全体のばらつきを見る
- RMSSD:隣り合う心拍間隔がどれくらい違うかを見る
- HF:呼吸に近い速さで起こる心拍間隔の変化を見る
生理前に低く見えたら、5つを確認
いつ、どのように測ったかを見る
睡眠中、起きたあと、マインドフルネス中のどこで記録されたかを見ます。その日の記録が極端に少なくないかも確認しましょう。
他人ではなく、自分の最近と比べる
年齢別の平均やSNSの数字ではなく、同じApple Watchで測った自分の数週間の流れを見ます。一回だけの上下で結論を出さないようにします。
生理周期の日付を添える
生理が始まった日を記録し、「次の生理の何日前だったか」「生理の何日目だったか」を残します。アプリが予測した排卵日は、確認された排卵日ではありません。
睡眠と体感を一緒に見る
睡眠時間、夜中に起きた回数、安静時心拍数、痛み、だるさ、気分、飲酒、強い運動などを一緒に見ます。HRVだけから原因を決めることはできません。
数周期の流れを見る
できれば2〜3周期以上を目安に、同じ時期に似た動きがあるか、それとも周期ごとに違うかを見ます。これは振り返るための目安で、研究で決められた必要期間ではありません。同じ動きが続いても、生理周期が原因だと証明されたわけではありません。
Feelmoでは、周期を「背景」として見る
Feelmoでは、まず「眠い」「痛い」「だるい」「気分が落ち込む」といった自分の感覚を大切にします。そこへ生理の記録、睡眠、心拍数、HRVを重ねると、自分の中でくり返す傾向を振り返りやすくなります。
FeelmoのBalance(整い度)は、毎日の状態を振り返るための独自の目安です。ホルモン量、排卵、月経前症候群(PMS)、自律神経を調べる検査ではありません。周期、HRV、体感が同じ時期に変わっても、それだけで原因や治療の効果はわかりません。
ピルの使用中、妊娠中、更年期は分けて考える
ここまで紹介した主な研究は、ホルモン剤を使っていない、自然な周期のある人が対象です。低用量ピルなどを使っている人、妊娠中や産後・授乳中の人、更年期の人へ、そのまま当てはめることはできません。
2026年の報告には、ホルモン避妊や閉経後を調べた研究も含まれます。ただし、まだ研究の数や分け方には限界があります。周期が不規則な場合も、日付だけで卵胞期や黄体期を決めず、記録を医師などへの相談に役立てましょう。
HRVだけでは判断できないこと
生理前の心や体のつらさが毎月くり返し、仕事、学校、家事などに影響するときは、HRVの数字にかかわらず産婦人科などへ相談してください。症状と生理の日を2〜3か月記録すると、経過を伝えやすくなります。急な強い痛み、大量の出血、失神などがあるときは、記録がそろうのを待たず医療機関を利用してください。
- 排卵が起きたか、いつ起きたか
- 月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)、妊娠、婦人科疾患の有無
- 「自律神経が乱れている」かどうか
- その日に運動してよいか、休むべきか
- 痛み、出血、気分変化の原因
参考資料
- HealthKitの心拍変動(SDNN)仕様 — Apple Developer
- A Systematic Review and Meta-Analysis of Within-Person Changes in Cardiac Vagal Activity across the Menstrual Cycle — Journal of Clinical Medicine
- Wearable-Derived Heart Rate Variability Across the Menstrual Cycle, Hormonal Contraceptive Use, and Reproductive Life Stages in Females — Sports Medicine
- Cardiac autonomic regulation across the menstrual cycle is highly individual — American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology
- Wearable Sensors Reveal Menses-Driven Changes in Physiology and Enable Prediction of the Fertile Window — Journal of Medical Internet Research
- Heart Rate Variability and Cardiac Vagal Tone in Psychophysiological Research — Measurement recommendations — Frontiers in Psychology
- Premenstrual Syndrome(PMS) — American College of Obstetricians and Gynecologists
- Apple Watchの「周期記録」を使う — Apple Watchユーザガイド
