まず、短く答えると
詳しい睡眠検査のデータから、その後に病気などが記録されるリスクを予測できる可能性が示されています。ただし、一人ひとりが将来必ず病気になるか、いつ発症するかを言い当てる技術として確立したわけではありません。普段の睡眠スコアから、同じ予測ができるという意味でもありません。眠りの記録を、将来の健康を考える手がかりへつなぐ研究です。
この記事の要点
- 睡眠中には、脳・心臓・呼吸など、体のさまざまな信号を記録できる
- SleepFMは、詳しい睡眠検査のデータを学習したAI
- 予測性能を表す数字は、その人が発症する確率とは違う
- 手首のセンサーへの応用も研究されているが、普段の睡眠スコアとは区別して考える
一晩の眠りには、たくさんの情報がある
睡眠の記録というと、「何時間眠ったか」を思い浮かべるかもしれません。
医療機関などで行う詳しい睡眠検査では、もっと多くの情報を集めます。
脳波、心臓の動き、呼吸、血液中の酸素、筋肉の動き。体につけたセンサーから、一晩を通して信号を記録します。「睡眠ポリグラフ検査」、略してPSGと呼ばれる検査です(NHLBI「Sleep Studies」)。
こうした検査は、睡眠時無呼吸症候群など、眠りの問題を調べるために使われています。
記録には、眠っていた時間だけでなく、その間に体がどう動いていたかも残ります。研究者たちは、この豊かな情報を、健康を考えるためにもっと使えないかと調べています。
約6万5,000人の眠りを学んだAI
2026年1月、医学誌『Nature Medicine』に、SleepFMの研究が発表されました。
研究チームが学習に使ったのは、約6万5,000人、58万5,000時間を超える睡眠検査のデータです。複数の生体信号を扱い、病気のリスク予測には年齢や性別も組み合わせています。
一晩の記録から、その後の認知症や心筋梗塞などについて予測性能が報告されました。例えば、認知症では「C-index」という指標が0.85でした(Thapaら、2026年)。
では、この「0.85」は、どのくらい当たるという意味なのでしょうか。
「0.85」は、自分が発症する確率ではない
C-indexは、出来事が起きる順序と、AIがつけたリスクの順序が、どのくらい合っているかを見る指標です。
大まかには、比較できる二人について、実際に早く出来事が起きた人を、AIも高いリスクと評価できたかを調べます。
そのため、0.85という結果を、「自分が85%の確率で認知症になる」「100人中85人の診断を当てた」と読むことはできません。
また、リスクの順番をうまくつけられることと、「今後何年で何%」という確率を正しく示せることも、別に確認する必要があります。予測した確率と、実際に起きた割合が合っているかを確かめることを、「較正」と呼びます(Rileyら、2024年)。
細かな用語を覚えなくても構いません。
研究の「精度」という言葉を見たら、何を、どのように当てた数字なのか。その一歩を確かめるだけでも、読み方が変わります。
病名が記録された日と、発症した日は違う
この研究では、睡眠検査の記録と、その後の電子カルテに残る病名などを結びつけています(Thapaら、2026年)。
ここで分けて考えたいのが、「病名が記録された日」と、「体の中で病気が始まった日」です。
例えば、体の変化が少しずつ進んでいても、検査や受診をきっかけに、後から病名がつく場合があります。記録上の診断を予測できたとしても、病気が始まる瞬間までわかったとは言えません。
同じように、睡眠の特徴から病気を予測できることは、その睡眠の特徴が病気の原因だと証明したことにもなりません。
「深い睡眠を増やせば、その病気を防げる」といった結論へ進むには、さらに別の研究が必要です。
誰のデータで確かめたかも大切
SleepFMの元論文では、データの多くが、睡眠の問題などで検査を受けた人のものだと説明されています。別の集団でも一部の病気について検証していますが、すべての項目を同じように確認できたわけではありません(Thapaら、2026年)。
検査を受けた人のデータから得た成績を、普段の生活を送る幅広い人へ、そのまま当てはめられるとは限りません。
これは、医療AI全般で大切にされている考え方です。
学習に使った人とは違う人でも役立つか。別の病院や、違う時期のデータでも結果が保たれるか。実際に使いたい場所に近い条件で、確かめる必要があります(Collinsら、2024年)。
人数の多さと、使いたい相手への当てはまり。その両方を見ることが大切なのです。
睡眠検査で学んだAIを、手首のセンサーへ
この研究は、さらに先へ進んでいます。
2026年9月に公開され、10月2日に改訂された「SleepFM-2」では、200万時間を超える睡眠記録を使っています。
大量の信号から特徴を学び、その特徴を睡眠段階の判定や病気のリスク予測などに使う。さまざまな分析の土台になる、こうしたAIを「基盤モデル」と呼びます。
続編では、頭につける脳波計や手首の脈波を使った睡眠段階の推定、手首の動きの記録を使った病気リスクの予測も試しています。用途によって、使うデータや解析の方法は異なります(Thapaら、SleepFM-2、2026年)。
ただし、2026年10月19日時点では、査読前の原稿として公開されている研究です。結果は今後の検証と合わせて読む必要があります。
睡眠検査で学んだ特徴を、もっと身近なセンサーでも使えるか。そこが、この続編の面白いところです。
Apple Watchの睡眠記録でも、同じことができる?
ここまで読むと、自分の睡眠グラフもAIに渡してみたくなるかもしれません。
ただ、画面に表示される「深い睡眠が何分」「睡眠スコアが何点」という情報と、研究で使う生体信号の記録は、同じものではありません。
Appleの2025年の技術資料では、Apple Watchの睡眠段階は、加速度センサーの信号をもとに推定すると説明されています。脳波を直接測っているわけではありません(Apple「Estimating Sleep Stages from Apple Watch」)。
また、手首の動きの信号を使う研究でも、画面に並ぶ睡眠時間やスコアだけを入力しているとは限りません。
どのセンサーで、どんな信号を集め、どのように解析したか。研究の結果を普段の機器へつなげるには、この違いを確かめる必要があります。
「予測できた」の先に、確かめたいこと
健康に役立つ技術になるためには、予測の成績の先も大切です。
高いリスクが出たとき、どんな検査や相談につなげるのか。その判断によって、必要なケアを早く届けられるのか。不必要な検査や負担を増やさずに済むのか。
医療の予測モデルは、こうした実際の役立ち方も評価する必要があります(Rileyら、2024年)。
眠りのデータに、これまで十分に使われていなかった健康の手がかりがある。その可能性を、AIが少しずつ広げています。
今朝の睡眠グラフは、将来の病気を告げる予告ではありません。
それでも、毎晩の体の働きを丁寧に調べることが、いつか、必要な人に必要なケアを届ける助けになるかもしれない。SleepFMは、そんな未来につながる研究の一つです。
参考資料
- Thapa R, et al. (2026). A multimodal sleep foundation model for disease prediction — Nature Medicine, 32, 752–762. DOI: 10.1038/s41591-025-04133-4(オンライン公開:2026年1月6日)
- Thapa R, et al. (2026). Learning transferable human physiology from two million hours of sleep with SleepFM-2 — arXiv:2609.06849v2. DOI: 10.48550/arXiv.2609.06849(初版:2026年9月6日。第2版:2026年10月2日。プレプリント)
- Sleep Studies — National Heart, Lung, and Blood Institute(NHLBI)
- Riley RD, et al. (2024). Evaluation of clinical prediction models (part 2): how to undertake an external validation study — BMJ, 384, e074820. DOI: 10.1136/bmj-2023-074820
- Collins GS, et al. (2024). Evaluation of clinical prediction models (part 1): from development to external validation — BMJ, 384, e074819. DOI: 10.1136/bmj-2023-074819
- Apple (2025). Estimating Sleep Stages from Apple Watch — Apple(2025年10月の追補を含む技術資料)
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